過払い金「日本信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料はみなし利息か?」

制限利率を超過する利息の弁済
みなし弁済の判決例
前提
事実
証拠


主文

1 Dの控訴に基づき,原判決主文第1項(A関係部分)を次のとおり変更する。
(1) Dは,Aに対し,144万3618円及びこれに対する平成8年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) Aのその余の請求を棄却する。
2 Bの控訴に基づき,
(1) 原判決主文第2項中,B関係部分を取り消す。
(2) Dは,Bに対し,300万円及びこれに対する平成8年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 Cの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1審,差戻前の控訴審,上告審及び差戻後の控訴審を通じて,
 (1) Bに生じた分は,すべてD
 (2) Cに生じた分は,すべて同原告
 (3) その余は,これを5分し,その1をA,その4をDの各負担とする。
5 本判決主文第1項(1)及び第2項(2)は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 控訴の申立て

 1 D
(1) 原判決主文第1項(A関係部分)を取り消す。
(2) Aの請求を棄却する。
2 C及びB
 原判決主文第2項(C及びB関係部分)をいずれも取り消す。
 (1) Dは,Cに対し,100万円及びこれに対する平成8年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) Dは,Bに対し,300万円及びこれに対する平成8年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要と審理経過

 1 事案の概要は,次のとおりである。
  (1) 甲事件関係(A及びC関係)
 ア Aは,Dに対し,継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)に基づき,同原告が,Dから反復継続して借り受ける際(以下,一連の取引を「本件取引」という。),交付された金員は,各貸付額から,利息のほか,日本信用保証株式会社(以下「日本信用保証」という。)に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)をも控除した金額であるところ,これら保証料等も利息制限法(以下「法」という。)3条のみなし利息に当たり,これも含めて本件貸付契約に基づく取引において,同原告が支払った利息等のうち,法所定の制限を超える部分を元本に充当すると,過払い金が生じているなどと主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払い金175万3362円及びこれに対する平成8年7月25日(甲事件訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め,
イ Cは,Dに対し,本件貸付契約に基づき,AがDに対して負担する債務について連帯保証したところ,同貸付契約に基づくAの主債務は既に消滅していたにもかかわらず,Dは,Cを債務者とする仮差押命令を取得して執行する等したものであり,これは不法行為を構成すると主張して,慰謝料200万円のうち100万円(一部請求)及びこれに対する平成8年6月4日(不法行為日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める事案である。
(2) 乙事件関係(B関係)
  同原告は,Dに対し,本件貸付契約に基づき,AがDに対して負担する債務について連帯保証したところ,同貸付契約に基づくAの主債務は既に消滅していたにもかかわらず,Bが同連帯保証債務の履行としてDに対して支払った合計300万円は,Dの不当利得であると主張して,不当利得返還請求権に基づき,同300万円及びこれに対する平成8年7月31日(乙事件訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める事案である。
2 原判決の結論は,次のとおりである。
(1) 1(1)アのAの請求を全部認容し(原判決主文第1項),
(2)ア 1(1)イのCの請求及び
 イ 1(2)のBの請求
をいずれも全部棄却した(同第2項)。
3 控訴の申立て
  原判決について,
(1) Dは,2(1)の部分を不服として,第1の1のとおり,
(2)ア Cは,2(2)アの部分を不服として,第1の2(1)のとおり,
 イ Bは,2(2)イの部分を不服として,第1の2(2)のとおり,それぞれ控訴を申し立てた。
4 差戻前の控訴審判決(当庁平成11年(ネ)第120号。以下「前控訴審判決」という。)の内容 前控訴審判決は,
(1)ア 日本信用保証とDとの関係を考慮しても,日本信用保証の法人格が形がい的又は濫用的なものであるとはすぐにはいえないし,日本信用保証の受ける保証料等は,Dの受ける利息等とは別個のものであり,これを法3条所定のみなし利息とみることはできない,
イ 本件取引における各貸付けに対する弁済によって生じた各過払い金は,各貸付けごとに生じているものと認められ,他の借入金債務に充当されないとの理由で,
(2)ア Dの控訴に基づき,
(ア) 原判決中,Dの敗訴部分を取り消して(前控訴審判決主文第1項),
(イ) Aの請求を棄却し(同第2項),
イ C及びBの各控訴をいずれも棄却した(同第3項)。
5 上告の申立て
  C,B及びA(以下,3名をまとめて「原告3名」という。)は,4(2)の前控訴審判決を不服として,上告受理を申し立て,受理された。
6 上告審判決(最高裁平成12年(受)第1000号。以下「本件上告審判決」という。)の内容
 上告審(最高裁第一小法廷)は,平成15年9月11日,
(1)ア 本件の事実関係の下においては,日本信用保証の受ける保証料等は,本件取引に関しDの受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきであり(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判所時報1343号6頁(以下「7・18判決」という。)参照),
イ 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払い金が存する場合,この過払い金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利
息を取得することができないと解するのが相当である(7・18判決参照)との判断のもとに,
(2) 4(1)ア及びイの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして,
(3) 4(2)の控訴審判決を破棄し,本件を福岡高等裁判所に差し戻した。
(以下「本件上告審判決」という。)
7 当審における審理の範囲
  6(3)の差戻しを受けた当審は,6(1)の上告審の判断の拘束力を受けて(民事訴訟法325条3項),改めて,3の控訴に対する審理をし,判断をするものである。

第3 当事者の主張

  差戻後の当審において,補足主張を次のとおり付加するほか,前控訴審判決の「事実」中の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
 1 原告3名の補足主張
(1) 7・18日判決及び本件上告審判決は,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうち一つの借入金債務につき,法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払い金が存する場合は,借主が,民法488条の指定充当として,次のいずれを選択して主張することもできることを判示したものと解釈される。
ア 借主が複数の権利関係が発生するようなこと自体生じることは望まないのが通常であるという充当先の債務を一体的に指定する意思が推定されることに基づいて,債務者に,充当先の債務を一体的指定があったとして,一連充当計算を主張する。
イ 債務者に一体的指定でない,有利な具体的な指定があったと主張立証して,系統別充当等を主張する。
ウ 充当指定がないものとして,民法489条1ないし3号,491条の規定に従って,弁済の利益の多い順の費用・利息・元本への個別法定充当を主張する。
エ 債務者にとって弁済の利益は同じであるとして,民法489条4号,491条の規定に従って,各債務の額に応じた法定充当を主張する。
(2) 原告3名は,借主(債務者)として,(1)アの充当先の債務を一体的に指定する意思があったと主張し,一連充当計算を選択した。
(3) 原告3名は,複雑な戻し利息等の計算をしない一連充当計算の方法として,単純明快な後払い計算をさらに選択した。
(4) (3)の計算方法に基づき,本件各貸付けについて,過払利息の元本充当計算を行うと,別紙1「元本充当計算書」記載(以下「本件計算書」という。)のとおりであり,平成6年10月21日時点で,主債務者であるAの貸金債務は完済され,平成7年12月13日時点で,過払い金144万3618円が生じている。
2 Dの補足主張
(1) 本件各貸付は,法所定の上限15%と18%の貸付けに分離し,現実の弁済がなされるまでの利息を累積させ,弁済の都度超過弁済額を元本に充当すれば,別紙3「個別充当計算書D」記載のとおりとなり,平成3年10月11日から同7年12月13日までの取引により,最終日(12月13日)現在の残元本は,123万5907円となる。
(2) (1)の計算は,弁済と貸付けが同一日である場合,弁済が先で貸付けが後になされたとして算出したものである。

第4 当裁判所の判断

 1 事実関係
 当事者に争いのない事実及び証拠(以下,引用する証拠のうち,単に「甲」と表示するのは甲事件の甲号証であり,単に「乙」と表示するのは甲事件の乙号証である。
甲1,2,9の1・2,10〜14,16,乙1の1・2,2の1〜88,3の1〜6,4の1・2,6,8の1〜10,29の1〜8,併合前の乙事件の乙1の2,E,F,C)並びに弁論の全趣旨(双方の主張)によれば,次のとおり認められる。
(1) 当事者
ア Aは,Gの名称で塗装業を営む者である。
イ Cは,Aの子である。
ウ Dは,旧商号である株式会社日栄の名称により保証付手形貸付け等を業としていた。
(2) 本件貸付契約
  Aは,平成元年11月2日,Dとの間で,次のような継続的な手形貸付取引契約(乙1の1。本件貸付契約のこと)を締結した。
ア 元本極度額 1000万円(1条)
イ 利率 その都度,Dと合意により決定(3条)
ウ 返済方法 手形面記載の満期日に,同記載の支払場所において,手形金額を一括返済(5条)
エ 特約 A振出しの手形が不渡りになったときは,同原告はDに対する一切の債務について当然期限の利益を喪失する(6条)。
オ 本件契約に基づく借入申込書は,反覆・継続取引における包括借入申込書とし,2回目からの借入申込みに際しては,手形の差入れをもって借入申込書に代わるものとする(12条2項)。
(3) Dと日本信用保証の関係
  日本信用保証は,Dの貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,Dが100%出資して平成3年5月に設立した子会社であり,日本信用保証の利益は,最終的にはDに帰属するということができる。日本信用保証は,Dの貸付けに限って保証しており,Dから手形貸付けを受ける場合,日本信用保証の保証を付けることが条件とされている。
日本信用保証の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,日本信用保証の設立後,Dは貸付利率の引下げ等を行ったが,日本信用保証の受ける保証料等の割合とDの受ける利息等の割合との合計は日本信用保証を設立する以前にDが受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。
日本信用保証は,Dの借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務をDに委託しており,信用調査業務についてもDに任せ,保証の可否の決定業務をも事実上Dに委託していた。
また,信用保証会社が貸付金取引の借主の債務を保証する主たる目的は,借主が返済を怠った場合,信用保証会社が貸主に対して代位弁済を行い,借主に対して求償金の回収業務を行うことにあるにもかかわらず,日本信用保証については,債権回収業務もDが相当程度代行していた。
日本信用保証は,その組織自体がこのような各業務を自ら行う体制にはなっていなかった(弁論の全趣旨)。
(4) Bの連帯保証
  同原告は,同6年6月9日,Dに対し,本件貸付契約に基づきAがDに負担する債務について,次の内容で連帯保証した(併合前の原審平成8年(ワ)第177号事件の乙1の2)。
ア 極度額 400万円
イ 保証対象 AがDに対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務
ウ 保証期間 前同日から同11年6月9日まで
(5) Cの連帯保証
  同原告は,同6年10月21日,Dに対し,本件貸付契約に基づきAがDに対して負担する債務について,次の内容で連帯保証した(乙1の2)。
ア 極度額 600万円
イ 保証対象 AがDに対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務
ウ 保証期間 前同日から平成11年10月21日まで
(6) Dは,Aに対し,本件貸付契約に基づき,次の内容で,別紙2(前控訴審判決別紙七に同じ。)「計算表」記載のとおり(ただし,法所定の計算の欄部分を除く。),平成元年11月2日から同7年12月13日までの間,継続的に107回にわたり,反復継続して,Aから107通にのぼる約束手形の振出しをその都度受けて,手形貸付けの方法で,法1条1項所定の制限利率を超える利率で貸し付けた(当事者に争いのない事実,甲11,乙2の1ないし88,弁論の全趣旨)
ア 「貸付日」欄記載の日に,
イ 「支払期日」欄記載の日を弁済期として,
ウ 「手形額面」欄記載の金額を,名目上の貸金額とし,
エ ウの金額から,「天引額」欄(弁済期までの約定利息金と,Dの受ける調査料及び手数料を含む。)及び「訴外会社(日本信用保証のこと)保証料等」(ただし,平成3年7月以降の貸付けについては日本信用保証に対する保証料及び事務手数料(平成5年7月14日以降の貸付けについては,事務手数料として振込手数料618円が加算されている。))欄記載の金額を控除して,
オ 本件計算書の「借入金額」欄記載の金額を,現実に交付した。
(7) 本件貸付契約に基づきAが振り出した手形のうち,
ア 平成7年8月4日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済されて,当該各貸付金はいずれも弁済されているが,
イ 同月11日から同年12月13日までの間の貸付けに係る次の手形6通は,不渡り又は決済未了となっている。
 (ア) 振出日7年8月11日,金額140万円
 (イ) 振出日前同日,金額115万円
 (ウ) 振出日9月8日,金額100万円
 (エ) 振出日10月12日,金額115万円
 (オ) 振出日11月2日,金額190万円
 (カ) 振出日12月13日,金額125万円
(8) 別紙2「計算表」記載の107通の手形の貸付日欄と支払期日欄を照合すれば分かるとおり,
ア 同表中,
(ア) 番号1,2,3,6,7及び15の各手形貸付けに関しては,当該手形の各支払期日に新たな手形貸付けを受けていない。
(イ) その余の各手形(101通)分の手形貸付けに関しては,
a 当該手形の各支払期日に,新たな手形貸付けを受け,
b 先に振り出していた手形の返済資金に充てるため,その支払期日に,
c aの新たな手形貸付けを受けて,借換えや借増しを繰り返していた。
イ したがって,本件取引は,そのほとんどが,先に振り出していた手形の返済資金に充てるため,新たな手形貸付けを受けて,借換えや借増しを繰り返していたことになる。
(9)ア 本件取引により現実に交付された金員((6)参照)は,まれに,当初の取引や増額する場合に直接交付されることもあるが,原則として,顧客であるAの当座預金口座に振り込まれ,
イ 塗装業を営んでいたAは,借換えや借増しをして,Dから新たな手形貸付けによる金員を受け取っても,事業を継続させるためには,先に振り出していた手形の不渡りを回避すべく,その資金を先に振り出していた手形の決済資金として優先的に使用せざるを得ず,
ウ Dも,各手形貸付けの禀議書を作成し,本社の審査で決済した上で融資を実行するシステムをとり,借換えや借り増しが,実質的に先に振り出していた手形の決済資金を補てんすることを予定していた。
(10) Bは,Dに対し,(7)イの(ア)から(カ)までの6通の手形金債務の保証債務の履行として,平成8年2月の20日,22日及び23日に,各100万円(合計300万円)を支払った。
2 Aの請求の原因について(引用に係る前控訴審判決2丁裏8行目から4丁表8行目まで参照)
(1) 上記認定の事実によれば,
 本件取引の実態は,次のような,手形貸付けの方式による継続的な金銭消費貸借である。
ア 手形貸付取引を継続的に行うことを予定した基本契約(本件貸付契約のこと)を締結している。
イ 本件取引による貸付けは,いずれも本件貸付契約の極度額1000万円の範囲内で,一定期間,同契約に基づいて取引を継続することを予定した上,その間,次のとおり高利の金員を天引き,控除することができるような仕組みのもとにされた手形貸付けである。
ウ 本件取引により交付された金員は,各手形金額(名目上の貸付元本額)から,
(ア) 弁済期までの約定利息金
(イ) Dが徴収する調査料及び取引料
(ウ) 平成3年7月以降の貸付けについては日本信用保証に対する保証料等を控除した残額である。
エ 本件取引は,Aの振り出す手形を,手形面記載の支払期日に,同記載の支払場所において,手形金額が決済されて一括返済する方法をとっている。
オ したがって,本件取引の実態は,全体としてみれば実質一連一個の貸付けに等しいものと認められる。
(2) 本件事実関係の下においては,日本信用保証の受ける保証料等は本件取引に関しDの受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである(7・18判決及び第2の6(1)ア参照)。
したがって,この前提で,本件取引について,法に基づき制限超過利息部分を元本に充当する計算を行うことになる。
そこで,次に,その元本充当の計算方法を検討するに,まず,その判断に必要な本件取引実態について検討する。
(3) 上記認定のとおり,本件取引は,本件貸付契約(基本契約)に基づき,平成元年11月2日から同7年12月13日までの約6年間,極度額1000万円の範囲内で,継続的に107回にわたり,107通にのぼる手形による手形貸付けが行われていたものであり,全体としてみれば実質一連一個の貸付けに等しいものである。
  そうとすれば,形式上は,別個の貸付け,少なくとも,系列ごとの貸付けの形態をとっているとしても,実質一連一個の貸付けに等しい実態のもとで,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,
ア 借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払い金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
イ したがって,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払い金が存する場合,この過払い金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(7・18判決及び第2の6(1)イ参照)
(4) 元本充当の計算方法
 ア(ア) 本件全証拠によるも,(3)イにいう特段の事情を認めるに足りる証拠はないから,本件取引において,法所定の制限超過部分を残元本に充当してもなお過払い金が存する場合,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当されるべきである。
 (イ) 上記本件取引の全実態にかんがみれば,本件取引は,手形決済方式による手形貸付けを実行することを際だった特徴とする継続的な金銭消費貸借に等しいから,これを一体的に継続した取引とみるべきである。
イ したがって,一体的に継続した取引を全体的に把握して,法所定の制限超過部分を元本に充当する計算方式を用いることが実態に合致する。
ウ(ア) 法所定の制限超過部分を残元本に充当してもなお過払い金が存する場合の充当に関しては,
a 先に述べたとおり,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられ,
 b 本件におけるように,借主(A)と貸主(D)との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(この趣旨について,消費者契約法1条参照のこと)等にかんがみ,
(イ)a 別途手法を用いないと不合理である等の特段の事情がない限り,借主において容易に計算可能な手法,すなわち,充当先の債務を一体的に指定する意思のもとに,一連充当計算を選択し,複雑な戻し利息等の計算をしない一連充当計算の方法として,借主に最も容易に検算ができる単純明快な後払い計算方式をもって,借主が指定充当したものと推認するのが相当であるところ,
 b 本件において,aの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
(5) 元本充当計算の結果
ア Aは,Dに対し,本件計算書の「日付」欄記載の日に,「返済金額」欄記載の返済をしてきたが,上記のとおり,保証料等も法3条のみなし利息として,これも含めて本件取引につき支払った利息等のうち法所定の制限を超える部分を,(4)ウ(イ)aの計算方法に基づき,本件取引の各貸付について,過払利息の元本充当計算を行うと,本件計算書記載のとおりとなる。
イ ここで,本件計算書の内容を説明する。
 (ア) 本件貸付契約に基づく初回は手取り(現実交付額)が91万8685円(別紙2参照。以下同じ。)であるから,原告3名主張の年18%の割合による利息として算定する。
 (イ) 参考までに,平成1年12月21日欄の「法定利息損害金」欄を計算すると,次のとおりである。
この間の利息参入に当たっては,借入日の平成1年11月2日(初日参入)から次の借入日前日(同年12月20日。以下同じ。)まで49日間として算定する。
 918,685×0.18÷365×49=22,199
 利息計算期間を,前の借入日(初日参入)から次の借入日前日までとした理由は,本件取引実態及び法の趣旨にかんがみ,貸主には借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とするのが相当であり,前の借入日(初日参入)から次の借入日当日まで取れば,貸主が二重に利息を取ることを意味し,相当でないと判断されるからである。
 (ウ) 本件取引実態にかんがみれば,1000万円の極度額の範囲内で,手形貸付を継続して行うことを予定しており,一回の手形貸付金額が100万円未満であるからといって,本件取引全体からみれば,複数口に分けて返済させる貸し方ともいえるから,各貸付けごとに,100万円を境にして,高率元本(年18%)と低率元本(年15%)とに区別することは,法を実質的に脱法する手口というべく,採用し難い。したがって,2回目以降の法定利息は,本件取引実態にかんがみ,年利15%として算定する。
 (エ) 「法定利息損害金」欄は,残元金に対する借入日から次の借入日までの法所定の(ア)及び(イ)の利率に基づく利息である。参考までに,平成2年1月30日欄の「法定利息損害金」欄(48,835円)を計算すると,次のとおりである。
 1,620,357×0.15÷365×40=26,636
 22,199+26,636=48,835
このように,( )内の利息は,未払利息累計を意味する。
 (オ) 平成2年2月16日欄の「法定利息損害金」欄中のとれた金額は,残元本に対する法所定(年15%)の利息である。参考までに,同欄「66,600円」を計算すると,次のとおりである。
 同日返済の1,000,000円は,
a 同日現在の未払利息累計48,835円と同日現在の残元本累計
2,542,878円の利息17,765に充当される。
  48,835+{2,542,878×0.15÷365×17}=48,835+17,765=66,600
  1,000,000−66,600=933,400
b 次いで,同日前日現在の残元本累計2,542,878円に充当される。
  2,542,878−933,400=1,609,478
c したがって,同日現在の残債務は,残元本累計のみの1,609,478円となる。
 (カ)a 平成2年6月19日欄の「法定利息損害金」欄中の「50,506円」は,同日現在の未払利息の累計17,460円に,同日前日現在の残元本3,829,190円に対する同年5月29日(前回借入日)から今回弁済日の同年6月19日の前日(18日)までの21日間の利息33,046円を加えたものである。
    3,829,190×0.15÷365×21=33,046
    17,460+33,046=50,506
b 同2年6月19日欄の「法定利息損害金」欄中の「日数」欄の「0」は,同日借り入れして,同日に弁済して同日借入れをする関係で,イ(イ)で述べたとおり,貸主が二重に利息を取るのを避けるためである。
c 同2年6月19日欄の「法定利息損害金」欄中の「(0)」は,同日分の利息は,同日借入金(現実交付額)907,946円の利息に算入するからである。
d 同2年6月19日欄の「残元金」欄3,787,642円は,同日借入の現実交付額に同日借入前の残元金を加えたものを意味する。
 907,946+2,879,696=3,787,642
(キ) 以下,同様の手法で算定すると,本件計算書のとおりとなる。
ウ ア及びイによれば,
(ア) 主債務者であるAの貸金債務は,平成6年10月21日以降完済状態となっている(その後の新規借入金も,過払い金を充当することによって,過払状態が改善されるだけであった。)。
(イ) 取引最終日の同7年12月13日現在,Aの過払分は144万3618円である。
(6) Aの請求についての一応のまとめ
 ア 以上によれば,本件取引の結果,同原告のDに対する平成7年12月13日現在の過払分144万3618円((5)ウ(イ)参照)は,
(ア) 法律上の原因を欠くところ,
(イ) 同原告の財産により,Dが利益を受け,このために,同原告が同額相当の損失を被っており,
(ウ) Dに現存利益が存しないとの主張立証がないから(最高裁昭和62年(オ)第888号平成3年11月19日第三小法廷判決・民集45巻8号1209頁参照),
平成7年12月13日現在,同原告は,Dに対し,144万3618円の不当利得返還請求権を有するものである(民法703条)。
イ Dの同原告に対するアの不当利得返還債務は,同原告の支払請求によって遅滞に陥るところ,同請求は,同原告のDに対する甲事件訴状によってされているから,同訴状のD送達日の翌日である平成8年7月25日(これは,本件記録より明らかである。)から,遅滞に陥るものである。
ウ よって,同原告は,Dに対し,不当利得返還請求権に基づき,144万3618円及びこれに対する同8年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
エ 以上のとおりであるから,同原告の予備的主張については,判断の必要がない(引用に係る前控訴審判決4丁表9行目から6丁表9行目まで参照)。
 (7) 抗弁について(A関係。引用に係る前控訴審判決7丁裏2行目から8行目まで参照)
ア 同抗弁は,DがAに対し,Bの支払った300万円を控除しても,なお,平成7年12月13日(本件取引日の最終日)現在,本件取引に基づく貸金債権を有することを前提とするところ,
イ 同日現在,同貸金債権は存しない((5)ウ(イ)及び本件計算書参照)から,同前提が認められず,同抗弁は採用できない。
(8) 請求についてのまとめ
よって,(6)ウのとおり,Aは,Dに対し,144万3618円及びこれに対する平成8年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求権を有する。
3 Bの請求について
(1) 同原告は,1(4)の連帯保証契約に基づき,1(10)のとおり,平成8年2月20日から23日にかけて,Dに対し,合計300万円を支払ったが,
(2) Aの主債務そのものが同6年10月21日以降完済状態となっているから(2(5)ウ(ア)及び本件計算書参照),上記300万円の支払は,ア 法律上の原因を欠くところ,
イ Bの財産により,Dが利益を受け,このために,同原告が同額相当の損失を被っているものであり,
ウ Dに現存利益が存しないとの主張立証がないから,同8年2月23日現在,同原告は,Dに対し,300万円の不当利得返還請求権を有するものである(民法703条)。
(3)ア Dの(2)ウの不当利得返還債務は,Bの支払請求によって遅滞に陥るところ,同請求は,同原告のDに対する乙事件訴状によってされているから,同訴状のD送達日の翌日である同8年7月31日(これは,本件記録より明らかである。)から,遅滞に陥るものである。
イ よって,Bは,Dに対し,不当利得返還請求権に基づき,300万円及びこれに対する同8年7月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
4 Cの請求について
(1) 事実経過
  上記認定の事実に,証拠(甲1ないし4,5の1・2,6,7,8の1・2,17,18〜20の各1・2)及び弁論の全趣旨を加えれば,次のとおり認められる。
ア Dは,Cに対し,平成8年5月15日,Aの同7年10月12日振り出しに係る,金額115万円(1(7)イ(エ)の手形)の手形金債務の連帯保証債務履行請求権を被保全債権として,C所有動産につき,仮差押えを申し立てた(甲2)。
イ(ア) アの申立てに添付した報告書(甲3)には,保全の必要性として,Aは,半身不随となって入院し,事業の立て直しが図れず,自宅不動産も競売に付され,D以外にも4200万円の負債を抱えている模様であると記載した。
(イ) 松田弁護士(原告3名の代理人である。)は,Dに対し,同8年3月4日到達の支払拒絶通知書(甲4,5の1・2)により,法による過払利息の元本充当を行うと,既に大幅な過払いとなっていることが明らかであり,Cは,Dに対し,Aの保証債務を支払う意思は全くない旨を通知した。
(ウ) イ(ア)の報告書(甲3)には,Cより負債整理を受けた松田弁護士は,同原告の債務超過を理由に全く支払おうとしないと記載されている。
ウ(ア) Dは,同年5月22日,仮差押命令(甲1)を得て,同月27日,同命令の執行を申し立てた(甲6)。
(イ) 同申立てに基づき,執行官は,同年6月4日,Cの住所において,同原告の占有する応接セット1式(4点),タンス(2点),食器棚,レンジ,冷蔵庫,テレビ,ステレオ,洗濯機,電話器(各1点)を差し押さえた(甲7)。
(ウ) 執行官は,上記執行の場所を保管場所とし,上記差押物件に対し,仮差押物件標目票を貼付して,仮差押物であることを明示し,併せて公示書を室内に貼付して執行を終了した(甲7,8の1・2)。
(エ) 執行官は,同9年3月18日,目的物の保管状況を点検したが,異常を認めなかった。
(2) 1及び2の認定判断によれば,
ア Cが連帯保証した,AのDに対する貸金債務は,平成6年10月21日以降完済状態となっているので,
イ DがCに対する上記仮差押命令の申立てをした(同8年5月15日)時点において,その被保全権利である同原告に対する保証債務履行請求権はなかったことになる。
(3) ところで,D主張の考え方によれば,同8年5月15日当時,Dは,Aに対し,本件貸付契約に基づき,115万円を下らない債権を有していたことになるところ,当時,
ア 当裁判所が2(4)(5)で示したような考え方や弁済充当の方法があまねく妥当していたわけではないのみならず,
イ Dの主張するような考え方や弁済充当の方法も,それなりの法理論に基づくものであり,根拠がなかったわけでもなく,
ウ 上告審は,第2の6(1)のとおり,7・18判決及びその他同種事案において,
(ア) 保証料等は法3条のみなし利息であり,
(イ) 過払い金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当されるべきであると判断したが,最高裁の同種判断がなされるまで,下級審において,本件貸付契約に類似する取引において,(ア)及び(イ)と異なる判断のもとに,保証料等は法3条のみなし利息ではなく,かつ,弁済によって生じた各過払い金は,各貸付けごとに生じているもので,他の借入金債務に充当されないと判断する事例も多かったことは,法曹関係者のなべて知るところであった。
(4) 現に,前控訴審判決(15丁裏9行目から17丁表初行にかけて)は,当部が準拠した(3)ウの判断と異なるのみか,当審の考え方とも異なり,第2の4(1)ア・イのとおりの理由で,
ア(ア) AのDに対する平成7年12月13日現在の過払い金請求債権は392万7774円であり,
(イ) 他方,本件貸付契約に基づく のうち同年8月11日から同年12月13日までの貸付分合計785万円が弁済されていなかったし,
イ(ア) ア(ア)の内金346万0672円と(イ)の債権を相殺に供した後,
 (イ) Bが,その後支払った300万円を控除しても,
本件取引に基づくDのAに対する貸金債権は,平成11年2月18日現在,元本138万9328円が残存する旨判示していた。
(5) してみれば,
ア Dが(3)冒頭のように主張して,仮差押命令を得て執行をしたことを捉えて,Dに過失がある(違法であった。)と判断することは,当時の法理論に基づく限り,困難であるから,
イ CのDに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
 5 結論
(1) 以上によれば,
 ア Aの請求関係(甲事件)
 (ア) 同原告は,Dに対し,144万3618円及びこれに対する平成8年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めることができるから,同請求は,この限度で理由があるが(2(8)参照),
 (イ) その余の請求は理由がなく,
イ Bの請求関係(乙事件) 
  同原告は,Dに対し,300万円及びこれに対する平成8年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めることができるから,同請求はすべて理由があり(3(3)イ参照),
ウ Cの請求関係(甲事件)
  同原告の請求は,すべて理由がない(4(5)イ参照)。
(2) よって,(1)の趣旨に従い,
ア Aの請求関係
  (ア) (1)ア(ア)及び(イ)と一部異なり,Aの請求(第2の1(1)ア参照)を全部認容した原判決主文第1項(A関係部分)は,一部不当であるから,
 (イ) Dの控訴に基づき,(1)ア(ア)及び(イ)のとおり変更し, 
イ Bの請求関係
 (ア) (1)イと異なり,Bの請求(第2の1(2)参照)を全部棄却した原判決主文第2項中の同原告関係部分は全部不当であるから,同原告の控訴に基づき,同原告関係部分を取り消して,
 (イ) (1)イのとおり支払を命じ,
ウ Cの請求関係
 (ア) (1)ウのとおり,同原告の請求(第2の1(1)イ参照)を全部棄却した原判決主文第2項中の同原告関係部分は,正当であるから,
 (イ) 同原告の控訴を棄却する
こととして,主文のとおり判決する。

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不真正連帯債務
大尉については,本件書籍(2)により,太平洋戦 争後期に座間味島,渡嘉敷島の住民に集団自決を命じ,住民を多数死なせなが ら,自らは生き延びたという虚偽の事実を摘示され,原告B及びD大尉の社会 的評価を著しく低下させられ,その名誉を甚だしく毀損され,もって原告Bの 人格権や,原告CのD大尉に対する人間らしい敬愛追慕の情を内容とする人格 的利益が侵害されたとして,原告らが,被告株式会社岩波書店(以下「被告岩 波書店」という。)に対し,人格権に基づき本件各書籍について出版販売頒布 の差止め,また,被告岩波書店と被告Eに対し,不法行為に基づく謝罪広告の 掲載及び慰謝料の支払い(被告岩波書店に対し各1000万円,被告Eに対し 各500万円の各支払いを求めているが,両被告の債務は500万円の限度で 不真正連帯債務である。)を求めている事案である。